こんにちは、ただほんです。
ナインティナイン岡村さん推薦の小西マサテルさんの「名探偵のままでいて」をご紹介します!
「名探偵のままでいて」
あらすじ
かつて小学校の校長だった切れ者の祖父は、七十一歳となった現在、幻視や記憶障害といった症状の現れるレビー小体型認知症を患い、介護を受けながら暮らしていた。しかし、孫娘の楓が身の回りて生じた謎について話して聞かせると、祖父の知性は生き生きと働きを取り戻すのだった!そんな中、やがて楓の人生に関わる重大な事件が……。
表表紙裏より
登場人物
- 楓(かえで)…小学校の先生をしている。いろいろな謎を祖父に持ってくる。おじいちゃん子。
- 祖父…元小学校の校長で、まどふき先生と呼ばれていた。多くの本を読み、推理力のあるおじいちゃん。レビー小体型認知症を患っている。楓の持ってくる謎を解き明かして、物語を紡(つむ)いでいく。いわゆる安楽椅子探偵。
- 岩田先生…楓と同僚の小学校教師。楓のことが好きな様子。愛読書はクッキングパパ。
- 四季(しき)くん…劇団員。岩田の後輩で、岩田によって楓に紹介、3人で飲みに行く。ちょっと変わってるが優しい人。
- ソフトクリーム屋さん…理学療法士。実家がソフトクリーム屋さん。
- おかっぱさん…ベテランヘルパーさん。おかっぱ頭の四十代の女性。
- 親バカさん…言語聴覚士。やたら娘さんの髪の毛の美しさを自慢する。
- 香苗(かなえ)…楓のお母さん。話には出てくるが、姿見せず。
おじいちゃん子
僕はおじいちゃん子ではありません。物心ついてから親戚づきあいもなく、おじいちゃんもいませんでしたから。
でも、自分の子どもたちは、おじいちゃん子ですね。(妻の方のおじいちゃんですが。)
たぶん、子どもたちはおじいちゃんのことを尊敬していると思います。
何でも作れるし、優しいし…。
おじいちゃんはすごい!って思っていることでしょう。
そのおじいちゃんが認知症だったら、それは孫にとってショックでしょう。
この小説は、認知症ではあるが、時々知性を取り戻し、ミステリを解き明かしていくおじいちゃんと孫娘の話です。
そして、物語のポイントは認知症であり、それもレビー小体型認知症です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症とは
記憶障害を中心とした認知症と、動作が遅くなり転びやすくなるパーキンソン症状、繰り返す幻視がみられます。しかし、患者自身には病気であるという認識がありません。男性の方が女性の約2倍発症しやすく、他の認知症と比べて進行が早いのが特徴です。
健康長寿ネットより
介護の仕事を長年していてもあまり会うことのない認知症です。どちらかと言うとアルツハイマー型認知症と血管性認知症が多いですね。ほぼアルツハイマーです。
レビー小体型認知症の大きな特徴は幻視と、気分や態度、行動がコロコロ変わるところでしょうか。
この小説の中でも、おじいちゃんが幻視を見ていたり、気分や行動が変わることが描かれています。
一瞬、元に戻る時があり(アルツハイマー型でもそういう事はあると思います。)、その時に素晴らしい推理を披露されるのでしょう。
認知症の方々にも心があり、その心は見えなくなりますが、決してなくなりません。でも、だんだん見えなくなりますが…。
この小説は、何か孫とおじいちゃんの関係があたたかくて昔を思い出す感じがあります。
各章の簡単なあらすじ
第一章 緋色の脳細胞
「青い虎が書斎に入ってきた」と言う祖父。祖父はレビー小体型認知症である。まともな状態のときもあれば、幻視などが見えるときもある。
その祖父に孫の楓がある問題を持ってくる。
「瀬戸川猛資(せとがわたけし)」の評論集。
中古専門のネット書店で買ってきたのだが、その本の中に4枚の訃報記事が挟まっていた。
『ミステリや映画評論て活躍 瀬戸川さん逝く』
『瀬戸川さん逝去 惜しまれる才能』
『多層的な批評の時代 瀬戸川さんが遺したもの』
『瀬戸川氏語った ミステリと映画の幸せな逢瀬』
いったいどこの誰がなんの目的で、この4枚の訃報記事を本の間に挟み込んだのか?
そこでおじいちゃんは、「楓。煙草を一本くれないか」フランスの煙草、ゴロワーズ。
おじいちゃんの解き明かしが始まります。
第二章 居酒屋の密室
同僚の岩田と待ち合わせ。岩田の後輩の四季と初めて会う。
そこで一つの事件の話を聞く。
都内の割烹(かっぽう)居酒屋『はる乃』で起こった殺人事件。その時、現場に四季もいた。劇団員仲間と飲みに来ていたのだ。
居酒屋のトイレである男が殺害される。
トイレに行ったのはHで、その後四季がトイレに行き死体を発見する。
その時、Hに四季が「トイレ空いてる?」と聞くと、H「ああ。空いてるよ」と答えたという。
Hが犯人なら、「空いてないよ」と答えるはずだが、なぜ、Hは「空いてる」と答えたのか?
Hは『黙秘します』と言ったので警察に連行されてしまう。
その謎を楓はおじいちゃんに持っていく。
『楓。煙草を一本くれないか』
第三章 プールの“人間消失”
友人の美咲からの相談。
美咲の勤めている小学校(楓の祖父が昔校長をしていた学校。)であった事件。
『人間消失もの』の事件。
新卒2年目の『マドンナ先生』は、四年生三十人のクラスを受け持っていたが、四時間目の水泳の授業でのこと。
授業の終わりに先生が上に上がりなさい、というポーズを取った。子どもたちはプールから上がるが、その瞬間、「じゃばん!」プールに飛び込む音がする。
先生はどこにもいなく、消えてしまった!
この謎を楓はおじいちゃんに持っていく。
第四章 33人いる!
楓の学校でのこと。おじいちゃんに持ってきた難問。
「その日教室にいたのは、全部で三十二人。それが突然、三十三人に増えたことがあったの」
二人一組で英語以外話してはいけないという授業で、
どこからか、日本語が聞こえてきた。それも寂しそうな涙声で。
それは誰なのか?なぜ増えたのか?
ちょっとしたトリック。
第五章 まぼろしの女
ランニング中に殺人事件に出くわす楓の同僚の岩田。
若い男が、中年の男に刺される。
岩田はそのナイフを掴んでしまい、警察に容疑者として捕まってしまう。
楓と四季は岩田を助けようとするが、その時、事件を見ていた女の人が見つからない。
おじいちゃんはその事件も解き明かしていく。
岩田を助けることができるだろうか?
この辺から、物語は加速して行きます。楓の家族の謎も明かされていきますね。
第六章 ストーカーの謎
楓は無言電話やストーカー被害にあっていた。
ある日、電話がかかってきて「準備はすべて整ったんで、もう安心してください。今日はその報告です。」とストーカーから。
そこから、楓は事件に巻き込まれていくが…。
おじいちゃんは、四季は、岩田は、楓を助けることができるのか?
ただほんの書評
とにかく、読み心地の良い小説です。
何か、音楽を聴いているような、静かな曲から、だんだんと盛り上がっていく曲になるような、印象です。
おじいちゃんの推理や、ゴロワーズの煙草を吸う時の決めゼリフや、物語を紡いでいくというセリフ、とても印象的で好きです。
楓は「好きな人ができた」と言うのですが、それが、四季なのか、それとも岩田なのか?
どっちだよ!と思うような内容です。ぜひ続編がほしいですね。
介護士としても、レビー小体型認知症などとても身近な内容ですし、それでいて知ったかぶりではなく、ちゃんと調べた内容なのだな、と好印象な小説でした!
多重解決&作中作ミステリ「神薙虚無最後の事件」もおすすめです!
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